抑圧に屈しない、自己表現という本能

被爆ピアノコンサート「未来への伝言」/8月7日(土)文京シビックセンター

一台のアップライトピアノが、ステージの上に置かれている。
谷川賢作の指が鍵盤に触れる。
被爆というイメージを裏切る美しい音色に、客席はかすかに戸惑う。
やがて私達は、ピアノが語るメッセージを受けとめる。

私は今、奏でるという本能に身を任せている

原爆投下を受けた広島の、その爆心地から1.8キロの民家に、一台のピアノがあった。
周囲は全くの焼け野原と化したあの日にあって、ピアノは奇跡的に、家人に愛され奏でられたその姿のままそこに残った。

調律師・矢川光則によって蘇った被爆ピアノを囲み、
杵屋巳太郎、谷川賢作、おおたか静流、飯島晶子、クラーク記念国際高等学校の生徒100名が、奏で、歌い、語り、踊る。

いかなる抑圧にも屈しない、自己表現という本能を解き放つ彼らのパフォーマンスは、やがて力強い人間賛歌として結ばれていく。

一台のアップライトピアノは、被爆という過去を捨て去り、永遠の生命を得たかのように見えた。